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琥珀の夏 辻村深月 [作家た行]


琥珀の夏

琥珀の夏

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/06/09
  • メディア: 単行本



子どもの頃、夏に数回訪れた場所。

「ミライの学校」

学び舎で暮らす子供たちと
同じ空間で体験する1週間は、
普段の学校とは違っていた。

自然の中での生活。
”問答”に重点を置き、
子どもの自主性、自発性を導き出す。


大人になったノリコは弁護士となった。

ある時、発見された女児の白骨遺体。

場所は、遠い昔行ったことがあるあの地、
「ミライの学校」の跡地だった。

ミライの学校は、
神聖な泉の水と称し、消毒しない水を内々に扱い、
ある時、不純物混入事件を起こし、
学校の拠点を変えていた。

遺体が孫かもしれないとの依頼を受け、
ノリコは事務所を訪ねる。

そこにいたのは、
かつて合宿に馴染めないノリコに
寄り添ってくれたミカだった。

親から離れ、学び舎に住むミカ。

友達だとお互い言いあった二人。


遺体は、依頼者の孫ではなく、
久乃というミカと同じく学び舎に住む子だった。

久乃の死を巡り、
それまで放っておいた母親が、
裁判を起こし、ミカを訴えている。



明るく優しく、ノリコが憧れていたミカ。

人知れず、大きな心の傷を隠し、
大人になった今でも、囚われ続けている。


悪いのは、あなたではない。


ミカの閉ざされた心。

凍ったままの記憶。

あまりにも、純粋で真っ直ぐで、責任感が強くて、
でもとても寂しがり屋で、我慢し続けて・・


ノリコはミカの弁護人になる事を決める。


ミカの話を聞きたい。

ミカの心の内を解放させたい。

これからのミカ、そしてノリコのためにも・・




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架空の犬と嘘をつく猫 寺地はるな [作家た行]


架空の犬と嘘をつく猫 (中公文庫)

架空の犬と嘘をつく猫 (中公文庫)

  • 作者: 寺地 はるな
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/12/23
  • メディア: 文庫



嘘には、ついていい嘘と悪い嘘がある。

僕は、やるせない思いと報われない寂しさに
苛まれた時、
空想の世界に身を置き、
架空の犬を撫でる。


幼くして不慮の事故で亡くなった弟。

弟を溺愛していた母。

母は嘆き苦しみの果て
弟は生きていると
自らの信じる世界に入ってしまった。

嘘を守り続ける僕。
弟の名前で手紙を書き続けた。


羽猫家には、
祖父、祖母、父、母、姉の紅、弟の青磁
そして長男の僕・山吹がいた。

遊園地を作ると壮大な夢を持つ祖父、
骨董品屋を営む祖母、
面倒な事から逃げる父、
嘘は大嫌いで真っ直ぐな紅。

青磁の死から、
家族は皆、バラバラになってしまった。

決して向けられなかった
山吹と紅への母からの愛。

山吹は、母を救いたいと同時に
自分も救いたかったのかもしれない・・。


やがて、大人になり、家族を作り、
大事な人を守ろうとした時、
自分の進む未来へ向かおうと思った。


無駄なものはなにもない。

娯楽であれ、妄想であれ、
心の拠り所として、必要だ。

人は、特別何も出来なくても、
存在するだけで、意味は絶対にある。




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神様の罠 辻村深月他 [作家た行]


神様の罠 (文春文庫 つ 18-50)

神様の罠 (文春文庫 つ 18-50)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/06/08
  • メディア: 文庫



文庫オリジナルミステリーのアンソロジー。
辻村深月、乾くるみ、米澤穂信、芦沢央、
大山誠一郎、有栖川有栖(氏)が描く短編集です。

過去から現代まで、幅広く奥深い
作者独特の世界があります。


コロナ禍における複雑な心模様が、
現代社会の象徴として浮き彫りに。

コミュニケーションの変化による
人との距離がもたらす孤独感。

個々人の考え方の違いによる
不公平感。

日常の大きな変化に順応しようと
必死にもがく。


人の心の隙間に忍び込む黒い闇。

この社会ゆえに、
普段、はまることもなかった落とし穴に
誰もが落ちる可能性が広がっている。

普通と思われていた概念が崩れ、
これまでそれらに縛られていた人々は、
物事の本質を見失う。

危険な世の中、
見極める冷静な判断力を
自ら養い、行動する事が大切だ。






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傲慢と善良 辻村深月 [作家た行]





人間の複雑な深層心理。

傲慢-

優劣を付け、上下を決め、
知らず知らずのうちに、相手を評価する。

いつまでも子どもを信じられず、
親の保護下に置き、言うとおりにすれば間違いないと、
支配する。


善良-

親の言う通り行動し、
いい子、優しい子と言われる。

真っ当な事を、悪気なく言う。



複雑に絡み合う傲慢と善良。

誰しも両極端の心を少なからず
持っているのではないだろうか。

しかし、
傲慢さだけでは生きていけない

善良さだけでも生きていけない

家族であっても、恋人、友人であっても、
柔軟な態度で、自分と相手の両方の気持ちになって考える

不器用でも自分で決断し行動することで、
勇気と自信が芽生え、自立することができる

その上で、お互い認め合い、
共に生きていくパートナーとしての深い絆が
出来るのかもしれない









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線は、僕を描く 砥上裕將 [作家た行]





第59回メフィスト賞受賞
2019年王様のブランチBOOK大賞
2020年本屋大賞3位

自らが水墨画家である砥上氏が描く
瑞々しく崇高な小説です。

水墨画の知識がなくても、
繊細な描写や、投影される心が綴られることで、
墨の濃淡や、描く線の表現する多様さが、
目の前に繰り広げられる感覚、
水墨画の奥深さを感じることができ、
とても新鮮な気持ちになりました。



両親を事故で亡くし、
喪失感から抜け出せない青山は、
展覧会設営のバイトで、
運命の人と出会う。


水墨画の巨匠・篠田湖山。
彼に見初めれた青山霜介。
弟子として一から水墨画を習う事に。

湖山の孫である千映もまた、
将来を期待される水墨画家だった。
西濱湖峰、斉藤湖栖と共に、門下に属する。

それぞれの個性、技術は
一通りではなく、
それは作品にも表れていた。

湖山が真に認めた者に与える湖山賞。
千映は青山に勝負を挑む。

水墨画初心者の青山は、
湖山直々の教えを吸収する。

徐々に描く魅力に引き込まれていく。

しかし、難題の壁が行く先を阻み
水墨画の真髄を掴めず悩む。


命、心、慈しみ・・

掴んだ瞬間、
一歩突き抜けた境地が見えた気がした。


ガラス張りの中の
喪失感から
一歩、進むことができるのかもしれない・・








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