旅する通り雨 沢村 凛 [作家さ行]
「通り雨は〈世界〉をまたいで旅をする」を改題出版。
当時、
同時に出版された「ぼくは〈眠りの町〉から旅に出た」は、
2014年に読みました。
片やファンタジー、
今回の作品はSFという、
異なるジャンルではありますが、
どちらも謎が多く、空想が膨らむ作りになっています。
現実からかけ離れた点は同じですが、
こちらは、理論的で
少しだけ地に足が着いている感があります。
多くの謎が、様々な人物の思うままに語られ、
後に真実が明らかになる・・。
「雨がくると、覚悟をしなければならない。
家族がひとり、へることを」
子どものハランが聞いた不吉な噂・・
その後、雨降る中、現れた一人の旅人。
彼は、住み込みで仕事を手伝うようになる。
祖父、父、母、兄、姉とぼく。
それぞれの胸の内は複雑だ。
大人だけの秘密。
18歳になると実行できる事とは・・・
社会の発展、進化に伴い、
おこる弊害。
生きやすい世界を追求し、
自分の居場所を見つける。
しかし犠牲にする対償は大きい。
愛する人との別れ・・。
矛盾、非合理性。
生きていく適合性。
叶わなかった思い。
胸に残したまま、この地で生きる。
大事な言葉を伝えるために舞う。
伝道師は
大切な役目を担う。
弧蝶の城 桜木紫乃 [作家さ行]
唯一無二の存在となる。
カーニバル真子としての人生を生き抜く。
男・秀夫として生まれ、
心とのギャップにもがき苦しみ、
やがて故郷を出た先で、
女として生きる事を徹底していく。
世間に注目され続け、
話題性に事欠かないよう、
常に前進し続けた。
女性になるための最後の仕上げ。
モロッコに渡り手術を受ける。
その術後の経過が思わしくなく、
生死の境を彷徨う日々が続くも
ある医師に助けられ、
カーニバル真子の人生は続いていく。
しかし、体が腐敗していくような壮絶な日々の記憶は、
秀夫の心の奥深くに傷となって刻まれた。
それでも、帰国したカーニバル真子の躍進は続いていく。
移り行く世間の波に、上手く乗るために、
色々な事をした。
大勢の通り過ぎる人々を前に、
母と姉、昔から秀夫を知る者たちは
いつでも秀夫の味方だった。
ある時、裏切り、屈辱の中に見たものは、
胸の奥に沈んでいた記憶からの道だった。
その先には行ってはいけない恐怖。
闇から這い出るために・・
信じられる人たちに
囲まれた幸福を噛みしめる。
光が見えた先には、
再び目標に向かう
カーニバル真子の姿があった。
掬えば手には 瀬尾まいこ [作家さ行]
2019年本屋大賞「そして、バトンは渡された」の
著者である瀬尾さんが描く
日常のある風景。
平凡な人生が悩みだと匠は思っていた。
しかし、人の考えている事がわかる能力が
自分にあるのでは?と信じ、
実際、級友のピンチを何度か救ってきた。
大学生になり、
バイト先である飲食店の店長が性悪で、
次々とバイトが辞めていく中、
匠は最長記録を更新し続けている。
後に入った常盤さんも、辞めずに続いている。
常盤さんは、寡黙な女性で
なかなか心を開いてくれない。
ある時、匠は店長の誕生会と称し、
常盤さんの話を聞こうと、
3人で食事をすることになった。
相変わらずの常盤さんだったが、
ある時、彼女から、
違う女性の声が聞こえた。
匠はその声と心で会話するようになる。
その声に名前まで付けて・・
常盤さんに纏わる悲しく切ない過去。
全てが解放された後、
新たな一歩踏み出す。
それぞれの夢に向かって。
隠居すごろく 西條奈加 [作家さ行]
2021年「心淋し川」で
直木賞を受賞した西條奈加さんの作品。
隠居により、立場や環境の変化から、
今まで歩んできた人生とは全く違う考え方を、
小さな孫が運んできた難題に挑む度に思い知らされる。
堅実に厳しく商い業を営んできた自身を顧みる。
徐々に考え方が変化していく。
商い以外での人と人の繋がりが
いかに大切かを知る。
糸問屋・嶋屋の主人徳兵衛は、
三十三年間の仕事一筋の生活に終止符を打ち、
還暦を機に隠居することにした。
しかし、孫の千代太が住処に通い始め、
静かな暮らしは一変する。
心の優しい千代太は、
捨て犬をはじめ、色々持ち込んでくる。
「人のためにその優しさを使ってみてはどうだ」
徳兵衛のその一言から、
様々な事が始まった。
人生の2枚目のすごろく。
真白な紙っぺらが、
孫の千代太が賽を振り、
道を示し、手を引き、
いつの間にか、考えもしなかった道を進んできた。
「上がり」はなく、
この先も築いた道は継がれていく。
人情味あふれる時代小説で、
とても面白かったです。
時に落ちる徳兵衛の雷が、
実に爽快で、すっとします。
でも、孫にはタジタジで、
どうにかしてやりたいという気持ちが伝わり、
それが、頑なだった心を解かし、
結果、自分も周りも愉快になっていく。