同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 [作家あ行]
2022年本屋大賞受賞、
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
緊迫した戦場、臨場感、
知られざる戦争の裏側も、
恐ろしいほどに過酷な真実として、
この小説は教えてくれた。
戦争は、全て男の立場から語られる。
殺戮の惨さ、戦闘の激しさ、
敵との戦いやその勝敗。
決して忘れてはならない。
その陰で、人道から外れた女性たちへの恥ずべき行動、
仕打ち、そして女性たちの蔑まれた命を。
かつて、ソ連には女性狙撃兵が実在していた。
第二次世界大戦、独ソ戦禍。
少女セラフィマは母や村を失う。
母を撃ったドイツ狙撃手、
母たちの遺体を焼いたイリーナ、
この2人を倒す目的を支えに、
生きる道を選んだ。
ソ連赤軍女性兵士イリーナは、
そんなセラフィマを、
自らの手で狙撃兵に育て上げる。
セラフィマは、強くなるために、
憎むべきイリーナの元、訓練を積む。
ソ連優勢とはいえ、
戦場は激しさを増し、
次々と同士は命を落とした。
それぞれの信念の元、
貫き通す強さは、生きるために一番大切なものだ。
イリーナの「なんの為に闘う」問いに、
狙撃手となったセラフィマは、
「女性を救うために闘う」と答えた。
いつしか、セラフィマは、
イリーナが与えた憎しみという怒りは生きる糧、
遺体焼却は腐敗による弊害を防ぐ措置
すなわち誤解なのだと、彼女の真髄を知る。
両軍夥しい死者が出た戦いは、
ソ連が勝利した。
そして彼女たち狙撃兵の役目も終わった。
兵士たちには何も残されてはいない。
「愛する人を持つか、生きがいを持て」
憧れの女性兵士が教えてくれた言葉だった。
一番、語られなければならない
戦争の裏、奥に葬られた事実や、
残された兵士たちの精神論は、
国家としてはもとより、
各人無言のまま、それぞれの胸に深く沈んでいった。