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同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 [作家あ行]


同志少女よ、敵を撃て

同志少女よ、敵を撃て

  • 作者: 逢坂 冬馬
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/11/17
  • メディア: 単行本



2022年本屋大賞受賞、
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。

緊迫した戦場、臨場感、
知られざる戦争の裏側も、
恐ろしいほどに過酷な真実として、
この小説は教えてくれた。


戦争は、全て男の立場から語られる。

殺戮の惨さ、戦闘の激しさ、
敵との戦いやその勝敗。

決して忘れてはならない。

その陰で、人道から外れた女性たちへの恥ずべき行動、
仕打ち、そして女性たちの蔑まれた命を。



かつて、ソ連には女性狙撃兵が実在していた。


第二次世界大戦、独ソ戦禍。
少女セラフィマは母や村を失う。

母を撃ったドイツ狙撃手、
母たちの遺体を焼いたイリーナ、
この2人を倒す目的を支えに、
生きる道を選んだ。

ソ連赤軍女性兵士イリーナは、
そんなセラフィマを、
自らの手で狙撃兵に育て上げる。

セラフィマは、強くなるために、
憎むべきイリーナの元、訓練を積む。

ソ連優勢とはいえ、
戦場は激しさを増し、
次々と同士は命を落とした。

それぞれの信念の元、
貫き通す強さは、生きるために一番大切なものだ。

イリーナの「なんの為に闘う」問いに、
狙撃手となったセラフィマは、
「女性を救うために闘う」と答えた。

いつしか、セラフィマは、
イリーナが与えた憎しみという怒りは生きる糧、
遺体焼却は腐敗による弊害を防ぐ措置
すなわち誤解なのだと、彼女の真髄を知る。


両軍夥しい死者が出た戦いは、
ソ連が勝利した。

そして彼女たち狙撃兵の役目も終わった。


兵士たちには何も残されてはいない。

「愛する人を持つか、生きがいを持て」

憧れの女性兵士が教えてくれた言葉だった。



一番、語られなければならない
戦争の裏、奥に葬られた事実や、
残された兵士たちの精神論は、
国家としてはもとより、
各人無言のまま、それぞれの胸に深く沈んでいった。









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