壁の男 貫井徳郎 [作家な行]
小さな町の家々の壁に描かれた絵。
一見、稚拙な絵だが、人を引き付け、
見る者の心を掴む。
この町の噂を聞きつけ、
観光客が来るようにもなった。
ジャーナリストである私は記事にしようと、
この男に取材を試みるが、
男は頑なに拒み続けた。
私は、この男の事を知りたくなった。
この町で塾講師をしているこの男、伊刈。
母は、かつて美術教師だった。
決して上手いとは言えない絵。
なぜ、皆、魅入られるのか。
伊刈の生きてきた道を知るうちに、
衝撃を受けると共に、
悲痛な思いが押し寄せる。
少年時代、学生時代、そして社会人生活。
関わってきた人たち。
忘れられない思い出。
無念さ。
すべての思いが、
今の伊刈の絵となり、心となる。
一言では表せない人生が、
ここにある。
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